乾杯とさよなら

酒とご飯、天満の嵐

あなたは可愛いけど、結婚式には行きません

妹が嫁ぐタイミングで、実家の犬が死に、父親がひどく落ち込んでいるらしい。らしいと、書いたのは実家との交流を一切絶っており、実家に関する情報が全て伝聞だからだ。
昨年の秋頃、偶然妹が遊びに来ている状態で父親が倒れた。その頃も、どうしても両親の存在が苦しく距離を置いていたけれども、最後になるかもしれないからと言われ、仕方なしに電話に出た。それから少しの間、交流があったけれども、それも無くなってしまった。
嫁いだ妹から実家の犬が死んだよと聞かされた時、悲しいよりも、八十手前の父が呆けるかどうかが気がかりだった。父親の最後に関しては、私は母に背負ってもらうと決めているので、なにもすることもないし、何もしたくは無いのだけれど、妹はお父さんのペットロスが心配。もし、このまま呆けちゃったらどうしよう、としくしく泣いていた。
私の両親は本当にだらしのない人間で、私も妹も心底それに苦しめられてきた。私は父に似ただらしなさと、母に似た極端な性格をしっかり受け継いだが、妹はただただ優柔不断で優しい女性に成長した。彼女は両親を拒むこともなく、どんなにひどい状況でも、家族として近くにいることを選んでいる。
実家の犬が死んじゃったの。どうしよう、お姉ちゃんと言われた時、正直どうでも良かった。出来れば、両親に対する情報を耳に入れたくはないけれど、それを伝えると優しい妹は酷く悲しむので、子犬でもプレゼントしたら、と投げやりに返した。
その日から私の携帯に、子犬の写真が山のように送られ、犬種だの性別だの、父にどうやって渡すべきかだの相談のメッセージが山のように届いた。私は投げやりな気持ちのまま、その山のような相談のメールに返信した。苦しい作業だった。
今日、妹から「子犬を受け取りに行ったよ」と、いうメッセージと共に、愛らしい子犬を抱いた皺々の手の写真が送られてきた。なるべく遠くにいるのに傷ばかり増えていく。