乾杯とさよなら

酒とご飯、天満の嵐

邯鄲小吃館 駒川屋台倉庫店 備忘録

冬が近づき、職場が繁忙期になっていくに連れて歳が十ほど上の上司のパワハラがダイレクトに胃に響くようになってきた。旬のものを食べ、酒を飲むことだけが人生の喜びであるのに、逆流性食道炎は悪化の一途を辿っている。辛いことを忘れるためだけに飲む酒ほど悲しいものはないが、悪循環はしばらく終わりそうにない。

 

邯鄲小吃館 駒川屋台倉庫店

 

さて、最近出来た1つ下の友人は、食べ物の趣味が異様に合う、食い意地の張ったおかしなやつで、カツオを野球に誘う中島みたいな調子で、私を飲みに連れ出す。とにかく食べ物の趣味が合うので、彼と飲むのはなかなか楽しいのだが、一緒に食事をとると、私の胃は酒ではちきれそうになる。私は胃が悪く、彼はガンマ値が悪い。

ある日、彼から、怪しい中華料理屋への誘いを受けた。

 

 

はなしは、こうだ。駒川中野という聞いたこともない駅の怪しい中華料理屋では、倉庫の中で夜な夜な宴が開催されている。そこでは、香辛料で煮込まれた羊やなんかが大皿で提供され、一皿一皿が得えも言われぬ美味さだという。私は、二つ返事でその誘いを受け、紹興酒をちびちびやりながら、舌鼓を打つはずだった。

逆流性食道炎(今回のテーマ)」

食べたくて、食べたくて、這ってでも行こうとしたが、どうにも食事がとれない状況に陥り、友人からの忠告もあり、止む無く欠席。今回は雪辱戦である。

 

当日、なぜか私は二日酔いだった(胃が重い)

楽しみだ、楽しみだと、言いながら、中島と深夜まで酒を飲みかわし、待ち合わせ時間の17時までひたすらに、眠った。胃の中は空っぽだった。

中島に、「昼飯は食ったか?(胃の容量は大丈夫か)」と、尋ねられ「今日は何も食べてない」と、返すと彼は、やる気だなと、頷いた。私の胃はまだ、眠っていた。

 

 

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鉄の扉はずっしりと重く、開けるには全身を使う。

宴には30人近くの男女が集っていて、酒を飲みなが機嫌よく料理が運ばれるのを待っていた。

 友人達は、私に「最初から全力で食べると泣きをみる」と、三回ほど忠告した。忠告がなければ、私はたらいに前菜を山盛りにし、温かいものまでたどりつけなかっただろう。

 

 

 

前菜の数々

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甘辛いめんま。柔らかく炊いてあり、美味。生ビールの冷たさをやさしく受け止める包容力がある。


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揚げたソラマメ。最初は皮をむいていたが、煩わしくなり皮ごと口に放り込む。ビールで流し込むために生まれてきたに違いない。目の前に座っていた女性は、ほかの料理が入らなくなるといいながら、最後まで摘まんでいて愛らしかった。


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砂肝。ごま油であえてあり、やさしい味。やはりビールが進む。


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フワ(牛の肺)の酢の物。酢がきつすぎず優しい味。名は体を表すとは言ったもので、触感も優しく大変美味。きゅうりの歯ごたえもあり、感心しながら食べた。

 

前菜に舌鼓を打ちながら、ビールで胃の感覚を鈍らせ、徐々に胃を起こす。友人の忠告もあり、少量を皿に取っていたのだが、ここで私は運命の出会いを果たす。


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セロリと湯葉の和え物。セロリと湯葉をごま油で和えただけ。ジャキジャキとしたセロリの食感と、湯葉のしっかりとした歯ごたえが楽しい。シンプルなのに、こんなにも旨い。タライで食べたい

ここら辺ですでにかなり酒が進んでいた。胃のことは忘れている


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アンチョビと豆腐。洋風なはずなのに、パクチーがのった途端に中華である。後を引く味でなくなるのも早かった。言い忘れてていたがこの店、アルコールはセルフだ。久しぶりにビールサーバーを触ったがビールの泡がこんもりと盛り上がっていて、嬉しかった。


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出てきたときの、歓声と言ったら!しかし、なんの魚が思い出せない。タレがとろりと絡むことで、ねっとりとした舌触りになり美味。おそらく、ここら辺で焼酎に切り替えたはずである。

 


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見たらわかるが、鳥と大根がとろとろになるまで煮込まれている。遠慮のかたまりになっているところを主催者の方がさっと切り分けてくれた。ほろほろとほぐれていく鶏肉と、甘い八角の香りといったら!主催者の方は笑いながら、首の部分をさっと自分の皿に入れていて、ユーモアのある振る舞いがなかなか良かった。人が食べている場所が1番美味しそうに見えると、三万回くらい口にしたので、次は呼ばれないかもしれない。猛省。


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メインディッシュの羊。食べかけで失礼。胃炎持ちなこともあり、実はあまり塊肉が得意ではない。とくにしっかり油身が付いている肉が苦手で、調子が悪いときはラーメンのチャーシューも受け付けないのだが、今回は顔じゅうベタベタにしながら、夢中でしゃぶりついた。北海道出身だという男性は行儀よく食事をする方だったが、懐かしいといってやはり夢中で肉に噛みついていた。私はテンションが上がりすぎて、この骨をかじりながら電車に乗りたいとはしゃいでいた。紹興酒のせいである。

 

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羊の脳みその天ぷら。白子のような味だが、魚よりも臭みがなく、こってりとろりとした味わいが非常に美味。揚げたてを口の中に収めたいが、記録にも収めたいという思いから、勢いのある写真になった。一人一個という話だったが、余ったのでもう一つ頂いた。友人と半分にわかるはずが、見せびらかしながら一人で食べてしまった。もう呼ばれないかもしれない。やはり、猛省する。


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羊の中華スープ。紙の皿に入れてもらって、熱々のところを啜る。正直、これは癖がありダメな人はダメな味。私は駄目じゃないので、しっかり味わう。要は臭みが癖になる味。内臓がゴロゴロ入っていて野性味溢れる味わい。

 


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締めはカレーだった。悔しいことに、かなり満腹になっていて、ちょこっとしか食べられなかった(気がする)友人の忠告がなければここまでたどり着けなかっただろう。

ほぼ、初対面の方ばかりだったが、ここまでくるとかなり話しも弾んでいる。これが、大皿料理の懐の深さ。満ち足りているという、幸福。

 

倉庫を出てしまえば、静まり返った住宅街で、今までの喧騒が嘘のようだ。はち切れんばかりの腹を抱えながら、よたよたと、地下鉄に乗り天満に帰る。体中羊とスパイスの匂いで、私自身が料理みたいになっている。丸焼きにしたら大変美味だろう。胃の中にはたくさんの料理が詰まっているが、普段のように食道がつっかえている感覚もない。私の奪われている豊かな暮らしを、取り返す事が出来る、素晴らしい宴だった。